東京高等裁判所 昭和53年(う)483号 判決
被告人 宮嶋豊一
〔抄 録〕
そこで検討すると、原判決は所論のように説示して被告人が原判示両会社のために預り保管中の金員を横領した旨認定している。しかし、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人を代表とする表団地組合と両会社との間に原判示のような売買契約が締結され手付金が支払われたことは認められるが、本件農地の売買については農地法五条所定の県知事又は農林大臣の許可が必要であるところ、本件農道用地買収当時まだその許可がなかったことは明らかであるから、本件農地の所有権は両会社に移転しておらず、したがって本件農道代金が当然両会社に帰属することはありえないと解すべきである。原判決は、被告人と両会社間に前記の合意があった旨認定し、これを一つの根拠として本件農道代金は両会社の所有に属するものとして保護するのが相当であると判断しているが、なるほど原判決の掲げている右事実関係の被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書とくに昭和五〇年一一月三〇日付検察官に対する供述調書並びに同年一一月一七日付及び同月二九日付司法警察員に対する各供述調書中には右認定に沿うような供述部分がある。しかし、右各供述調書と原審証人朝倉茂、同菊地充の原審公判廷における各供述とを総合すると、被告人が両会社代表者らに「県の買収代金は反当り一五〇万円位と思うが、この代金はあなたの方に差し上げる。私達が売る価格と県の買収価格とでは反当り一〇〇万位の差があり、会社が損をすることになるが、その損害は会社の方で負担してほしい」旨申入れたのに対し、両会社としては本件農地の購入につき農地法五条による許可が下りない段階にあり、その売買代金も手付金しか払っていないので、本件農道代金を直ちに現実に受領する意思はなく、後日許可が下りて残代金を支払う際これと相殺して清算する趣旨で了承していたことが認められる。右事実によれば、原判示の趣旨の合意があったとは認め難く、また右事実があったからといって、本件農道代金を両会社に帰属させ、両会社が被告人にその保管を委託する旨の合意があったものとはとうてい認めることができない。そうして、被告人の昭和五〇年一一月二九日付司法警察員に対する供述調書、石村一二郎の司法警察員及び検察官に対する各供述調書によれば、本件農道用地の買収手続はすべて個々の土地権利者を対象として行なわれたこと、被告人は西蒲原土地改良区を通じ新潟県から各土地権利者に対して支払われる本件農道代金を同人らを代理して一括受領したものであることが認められるのであって、以上の事実によれば、本件農道代金はその支払い先である個々の土地権利者の所有に属するものと認めるのが相当である。したがって、これを前記両会社の所有に属するものとして両会社に対する横領罪の成立を認めた原判決は事実を誤認したものであり、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
(小野 斉藤 小泉)